忍者ブログ

みんなでしんがり思索隊

書いてみよう、それは案外、いいことだ。 / 載せてみよう、みんなで書いた、幻想稿。
MENU

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


わたしとすみれと空 / 著者:草薙菫 -ch3


 はじめまして、草薙菫です。自分に自信がなく、こういった場で自分を表現することが恐ろしく感ずるのですが、わたしなりに丁寧に書けあげていこうという決心を持って参加いたしました。よろしくお願いいたします。

 さて、わたしは自己紹介が苦手です。わたしはこういう人間ですと簡潔に語っても、相手の中に植え付けたわたしは、わたしのほんの一部分でしかありません。

 “私は、「」”(という人間です。) が10個くらい並び、「」の部分に一文を書いていく心理テストをご存知ですか。授業でやらされたことがあるのですが、あれには辟易しました。

私は、21歳です。
私は、大学生です。
私は、女です。
私は、読書が好きです。
私は、バランスが悪い人間です。

と書き連ねていっても、ここで説明しているのはわたしの情報であり、情報でわたしを表していると、生きたわたしが遠のいていく心地になります。

 同じ理由で、就職活動が大きなストレスとなり、わたしは就活から逃げ出しました。就活マニュアルの事例を参考に、話す言葉を考えたり考えた内容を話したりしている内に、わたしは自分が薄れてゆき、自分が商品であるかのような気持ちになったのです。

 また、わたしはわたしがよくわかりません。

 最近まで、はじめて同士のおつき合いをしていました。彼の、わたしと同じように苦しんできて、わたしと同じように生き抜いてきたことを誇りに思っており、わたしと同じように生涯の伴侶を求めているところに惹かれました。

 彼をしあわせにしたい、これからは彼と共にしあわせに歩んでいきたい、と思いました。愛するとはなにか、しあわせとはなにかわからなくなっていたわたしにとって、それは大きなものでした。彼が無償の愛を感じ、しあわせそうにしているだけで、満足でした。そしてその想いがわたしの理想そのものでした。

 しかし、誰かと心をさらけ出すような親密な関係になるには、わたしは心が弱すぎました。いままでわたしを苦しめてきた思考の癖が発現すると、彼に助けを求めて、どんどん依存していきました。彼のわたしへの気持ちが信じられなくなり、際限なく彼から気持ちを求めました。心に余裕が無くなり、一緒にいても離れていても、雁字搦めに苦しくなりました。そしてその時のわたしは、今のわたしから見ると、嫌悪すべき他人のようでした。

 わたしはわたしを信じていません。その時々の気分に思考が大きく左右され、当事者のわたしは冷静に判断することが出来ません。言動も、感情が強すぎると、わたしから離れていってしまいます。

 わたしの自分を表現することのできるツールは、文章です。書き綴るという表現を通して、わたしという人間が生きていることを、だれかに知っていただけたらと思います。

 アカウント名についてお話しましょう。
 名字 (草薙) と名前 (菫) のそれぞれに、別々の由来があります。

 菫は、幼い頃、おままごとで「すみれ」と名乗っていたことからとりました。といっても、すみれと名乗った記憶は一つしかありません。

 小学校の運動場には白いクジラがいました。体の半分を土から出して、背中に乗って遊ばせてくれる、白いクジラの遊具です。そのクジラの上で、おままごとをしたとき、わたしはすみれになったのです。

 すみれという響きが好きです。すみれと名乗ると、自分が透き通っていて神聖な感じになった気がしました。本名は、ねちっこくてがさつな感じがします。すみれの砂糖づけ、なんて、金平糖と同じくらい、なんだか夢の食べもののようじゃないですか。

 草薙は、森博嗣の「スカイ・クロラ」シリーズに登場する、草薙水素からとりました。この本との出会いは、15歳の時です。当時のわたしは、泣いても祈っても時間が刻々と過ぎていくことに、絶望していました。これ以上歳をとって、大人になりたくなかったのです。その想いを相談して教えていただいたのが、「スカイ・クロラ」シリーズでした。この本で描かれているのは、思春期の姿のまま成長することがなく、戦闘機に乗って空を舞って殺しあう、キルドレの物語です。丁度、押井守によって映画化された時期でした。観た方、結構いらっしゃるんじゃないでしょうか。

・The Sky Crawlers Music' Blue Fish:

(劇中で使われたこの曲が「スカイ・クロラ 日本製超高級自鳴琴五拾弁機」という名のオルゴールとなって販売されていたようで、手に入れたいものの一つです。)


 ただ、わたしが愛しているのは、映画ではなく原作です。

 下は、10代の終わりにわたしが書いた小説の一節です。

「人集りや夜の孤独のなかにいると、自分が分裂して、あちこちに飛び散っていく感覚に襲われたわ。漠然とした重い不安が、わたしのなかに舞い込んで内側から広がっていくのに、それを心という小さな箱のなかに閉じ込めているようだった。自分を両腕で守っても、何かで気を紛らわせようとしても、駄目だった。これが寂しいという感覚なんだと思ったけれど、誰とも話したくなくて、誰かに頼ってしまったら自分のなかの何かが崩壊しそうで、一人になりたくなるの。」

「わたしには何も無いのね。何かしらの能力が欲しかった。誰だってそう思っていることはわかっているわ。でもね、他人といるのが苦痛に感じるタイプの人間にとっては、芸術的センスの欠如は、自分を世界へ現すことが出来ずに、人目につかず、みじめで閉じた人生しか生きられないことを意味するのよ。」

 重い息苦しさから救いを求めていたわたしにとって、色々なものが沈澱した地上から離れ、軽く、自由な空を舞い踊ることのできるキルドレ、特に、ずば抜けて操縦の才能があり、飛ぶために生きていると言い切れる草薙水素は、憧れでした。

 好きな文章をひとつ、ご紹介いたしましょう。肉体的な変化が無いために、記憶障害が起こった「僕」が、隔離されていた病院から脱走中、自分が乗っていた戦闘機に再会する場面です。
この飛行機だ。
僕の飛行機だ。
これで、空を走り回れる。
飛び回れる。
僕は笑った。
躰(からだ)の内側から、それが湧き上がってきたからだ。
信じられない、また飛べるなんて。
素敵だ。
幸運だ。
操縦桿を左右へ振った。
ほんの僅かに遅れて、世界が回転する。
すべてが僕についてくる。
どこにも触れていない。
なにものにも支えられていない。
自由だ。
なにもかも無関係。
僕は、僕であって、僕以外には無関係。
どうして、こんなに簡単なことが許されないのだ?
どうして、こんなに純粋なことが許されないのだ?
避けられている。
遠ざけられている。
拒まれている。
妬まれている。
蔑まれている。
恐れられている。
憎まれている。
嫌われている。
何故、自分でない者にまで、自分の愛を押しつける?
それが愛だと信じさせるためにか?
本当の愛ならば、信じさせる必要などない。
違うか?
ああ、人間たちはみんな馬鹿だ。
この飛行機の、この美しさを見ろ。
この翼を見ろ。
これに比べたら、すべてが醜い。
愛なんて、錆のようなものだ。
それが、綺麗な営みだと、錆が思い込んでいるだけ。
美しさを知らない。
なにも見ていない。
美しさとは、この冷たさのことだ。
なんて、懐かしいんだろう。
僕の喉が痙攣し、息が震えた。
目を開けると、涙に滲んでいる。
金属が濡れてしまった。
僕は袖口でそれを丁寧に拭った。
けれど、涙は止まらなかった。
ああ……、僕は泣いているのだ。
悲しくないのに、泣いている。
たぶん、この美しさのせいだ。
美しさに涙が出る。
こんなに美しい存在が、世界にあるだろうか。
機体の曲面にぼんやりと映った自分の醜い姿を見る。
どうして、人間はこんなにも醜いのだろう。
でも、そんなことで泣けるわけではない。
どんなに可哀相でも、どんなに惨めでも、涙なんて出ない。
涙が出るのは、崇高な美に触れたときだけ。
――森博嗣『クレィドゥ・ザ・スカイ』中公文庫, p.261-264

 わたしは、草薙水素における散香 (戦闘機の名) の存在を求めていました。執着心の強い自分の性質を捨てたかった。喜怒哀楽を素直に表出したかった。人間関係のしがらみから脱したかった。生きている実感が欲しかった。

 いまでは、それらの希求は薄れています。わたしたちは、キルドレと違って、変わることができるから。わたしを大切に想ってくださったかたの言葉。わたしといてしあわせだと言ってくれた人との暮らし。それらの過去が、みじめな日々の感情の記憶や植え付けられた不安や恐怖から、わたしを強くしてくれます。

 それでも、この本をひらくといつだって、胸をつかまれて、泣きたいような、祈りたいような気持ちになります。永遠に満たされることのないわたしの何かが呼応します。いまのわたしは、あの頃に比べて、誤魔化さずに生きているだろうか。重さに慣れて、諦めのなかを生きていないだろうか。

 そしてまた、草薙水素に憧れます。軽く、自由に、舞い踊りたいと、空に想いを馳せて。









(編集・校閲責任:らららぎ)

拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

× CLOSE

ブログ内検索

× CLOSE

Copyright © みんなでしんがり思索隊 : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]