《は行》(破天荒――ハレーションする――フィールドワーク――封建的――。)
【破天荒】(はてんこう)――もともとは中国語で「前无此例,事情头回出现」(後にも先にもそんなことするやつはいなかった、ということ)という意味。
中国がまだ宋という名前だった時代の『北夢瑣言』という話集に出てきます。科挙というすごく難しい国家試験の合格者が、ある地域からは100年以上も出ておらず、その地域は「天荒」と呼ばれておりました。そこにある男が出てきて合格し、天荒を破ったということから「破天荒=前代未聞」という意味につながりました。
平成23年度の文化庁の調査では「破天荒=めちゃくちゃなことをする人」だと勘違いしていた人が7割近くあったらしく、すでに誤用の域を越えて、新しい語義として使われているようですね。
中学高校の恩師に、なかなかに破天荒な人物がいた。理学部を卒業した後、別の大学の文学部を卒業したという経歴だけでも十分破天荒だが、普段は生徒を追いかけ回し、授業では好きなことを言い、定期試験では中学2年生にセンター試験の改題を解かせるという、なかなか楽しいことをやっている人物だった。
(恩師の教え / ドーナツ)
【ハレーションする】(はれーしょんする)――ハレーションはもともと光学の専門用語で、フィルムに入った光が強すぎて(露光して)、光の輪っかみたいなもの(玉響)ができてしまったり、光の線(スミア)ができてしまったりして、ピントがぼやけること。
私たちの使っているカラーフィルムは、多層乳剤発色という難しそうな名前の現象方式をとっており、上から、保護層>感光乳剤層>ハレーション防止剤>フィルムベースという構造をしています。この一番下にあるチョー平らなトリアセテート(フィルムベース)まで光が進入して、反射してしまい、もう一度、感光して(作用して)しまうことをハレーションと言います。
似ている現象に「レンズフレア」というものがありますが、比喩としては、「ハレーションを起こす」(強い何かによって物の性質がぼやけること)などがあり、ここでは美術系の「緑と赤などの補色同士が隣り合って、色が干渉し合うこと」に近い語法だと考えることもできるでしょう。
いずれにせよ、
光が入りすぎて、ぼやけて曖昧になり、不明瞭、不鮮明、ちんぷんかんぷんといった状態になることを示す比喩です。
チカチカと光る画面を見ていると頭がハレーションしてしまうんでしょうか。
(自然体 / 水無月 紫苑)
【フィールドワーク】(ふぃーるどわーく)――文献を渉猟して読むだけではなく、実際に現場に出向き、その環境でしか見つからない視点や視座、あるいは考え方や問題点などを求めること。英語では「field research」(フィールドリサーチ)という。
人類学者のエスノグラファー(フィールドワーカー)という人たちがやってることで、社会学や建築学にも応用されています。フィールドワークは帰納的なアプローチなので、たまに失敗することもありますが、一流の人類学者たちは、透明人間のような存在となり、できるだけ主観をはさまず、事実(一次的なデータ)を大切にしようと心がけております。
その文化に共感的になることも、批判的になることも大事で、そのバランスの取り方も難しく、文化の担い手とのコミュニケーションや、「自分なりに考えてしまう」ことへの制止など、かなり難しい学術研究の方法とも言われていますね。
フィールドワークの帰り道である。遠いところを指定されよくわからない路線に乗るはめになり、案の定、その日の調査内容も私にとってはつらいもので、その日はフィールドワーク先で大泣きした。それで、よく知らない街で、よく知らない路線の駅へ向けて、一緒にフィールドワークをしていた友人と歩いて帰った。
(歩いて帰る道 / ドーナツ)
【封建的】(ほうけんてき)――封建制度の構造的な比喩。
日本では鎌倉から明治維新まで、将軍(偉くて強い人)が家来に土地を与える代わりに、忠義を誓ってもらう制度がありました。その家来は、その土地で農民を支配して、年貢とか色々なものを受け取ることができます。
そういった分け受けた土地のことを、中国語で「封土」といい、そこに領土を「建てる」ということで《封建》と呼ぶのですね。また、この制度だけでは商人と農民がコロコロ変わってしまうため、「士農工商」というルールができました。とてもシンプルで「農民の子は農民、商人の子は商人」というもの。
ここから、「上の支配は絶対で、下から上に物申すことはできない体制」のことを《封建的》と比喩で説明するようになりました。
中学高校のころ(中高一貫の女子校)では、封建的な部活の上下関係という秩序に耐えかね、よくトラブルになっていた。
(恩師の教え / ドーナツ)
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