小高い丘の上にある小さな女子校に通っていた私にとって夏休みは、静かな校舎に流れるおだやかな時間をゆったりと過ごすのが常だった。
部活で全国大会に出場した年は忙しかったけれども、時に勉強し時に部活をし、たまには友達と遊んだりして、やがてやってくる忙しい9月に向けて準備するような、そんな時間だった。
女子校ということもあり夏のときめきラブストーリーとは全く無縁だったけれど、今にして思えば私はそんな風にして過ごす夏休みが決して嫌いではなかった。
お嬢様学校にありがちな丈の長いスカートの制服は重たくて仕方なかったし、木々の緑も豊かな生命力を誇って重苦しかったけれど、そんなものに負けず私たちは軽やかに過ごしていた。
高校3年生の夏と言えば、もはや私たちは高校生ではなく受験生として過ごしていた。
学校で補習がなくても塾の夏期講習があり、家で勉強するのが嫌いだった私は毎日のようにどこかしらへ出かけて勉強していた。
と言っても行く先は学校か塾か図書館かしかなかったのだけれども。
学校の自習室は今は使われていない校舎の一角を高校3年生専用のスペースにしただけのものだった。
壁中に赤本が並べられており、いつも静まり返っていてどことなく緊張感がある、そんな場所だった。
外は天気がよくてすぐそばにあるテラスはとても魅力的なのに、受験生であるがゆえに自習室に留まって勉強するしかなかった。
先日、夏休みの母校に顔を出した。
夏休みの風景は私が在籍していた頃とほとんど変わっておらず、先生は補習の準備で忙しそうだった。
生徒の数は少なくて、のんびりと宿題に取り組んでいるようだった。
私はと言うと、大学に入ってから「夏休みだからこそ何か”””やる”””」という空気に何となく馴染めず、夏休みの短期留学をする気も起こらなくて、仕方なくバイトに精を出してみたり、少しだけ一人旅をしてみたり、「日頃できないことをのんびりやる」という高校の時と変わらない過ごし方をしている。
要するに、そういう風に夏休みを過ごすのが好きなのだと思う。
一方冬休みは短いし、毎日天気も悪くて日が落ちるのも早いし、中学高校とずっと落ち込んでばかりの冬を過ごしていた。
特にカトリックの学校ということもあり、クリスマスが終わってからは華やかだったクリスマスの飾りも外され、年末に向かってせわしなく動いて行く空気がどうにも嫌いだった。
だから、冬が嫌いで、夏の方が好きだった。
そんな季節の好き嫌いについて、大学に入ってから当時好きだった男の子と話していた時のこと。もうだいぶ前の話だ。
「私は夏の方が好きかなぁ。天気がよくて、日が長いし。」
「僕は冬だなー。なんとなく。」
この話をしていたのはだんだんと冬に向かっている時期で、身体が寒さに慣れず少しずつ暗くなる季節だったように思う。
大学生活1年目でまだまだわからないことだらけだったけれど、これからどんどん暗くなっていくのだろうなと、半ば悲観したような、半ば諦めたような心持ちでいた頃だった。
結局、その冬の間に失恋して終わるわけだが、それ以来冬のぴりっとした繊細な空気が何となく好きになった。
この空気はただ暗いだけじゃなくて、夏とはまた違った物語を作れるのではないかと、少しだけ希望めいた何かをつかんだのだ。
彼は「何となく冬が好きだ」と言っていたが、その「何となく」の部分を理解した冬だった。
かくして私は「冬の良さ」を知ったわけだが、それまでは夏が来るたびに冬のつらさと夏の楽しさを対比しては「あんなに日が短くて寒い日々が続くのは嫌だ」と思っていた。
今はそんな風には思っていないので、「冬が嫌いだと一辺倒に考えていたあの頃は幼かった」と懐かしく思い出す。
もっとも、今年の夏はそんな思いに浸っていられるような暇はなかったのだが……
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