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みんなでしんがり思索隊

書いてみよう、それは案外、いいことだ。 / 載せてみよう、みんなで書いた、幻想稿。
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夢見る頃のこと / 著者:セカペン - ch4


私の好きな帰り道には、常に恋があった。
モノレールの線路を境に、あっちの家の人たちとこっちの家の私たち。
その周辺を通る帰路には、私たちや彼らの様々な思いが踏みしめられている。

●十五のとき

 あの頃、私は世界でたった一つの真実を握っているような気持ちで手をつないでいた。

 大きな道路。悠々とのびるモノレールの線路。広大な空。それが一望できる道を二人で歩いた。その二人だけの時間は、めったにない時間だった。その限りある時間を、わざとゆっくり歩いて帰る。

「時間がとまらないかな」
そんなことを言いながら笑っていた。

 当時、家に帰ると、私は私の問題と向き合わなければならなかった。受験、家族、自分。それらの問題が一気に襲いかかってきているような気がして、私は壊れそうになっていた。そんな私を、彼は守っていた。私の話を聞き、私のことを理解しようとし、私のことを支えた。

 彼はいつだって私のヒーローであろうとした。私はいつだって彼に助けられていた。彼の愛を摂取する事で生きながらえているのだとさえ思っていた。「好きだ」「愛している」という言葉を合言葉のように言い合った。そうして言葉で伝え合うことで、会えない時間の不安を抑えようとしていた。

 彼は二人で帰るとき、いつも私の手をつなぐ。

 始めの頃は、決して私の方からつなごうとしなかった。私の指先がとても冷たいからだ。彼に触れると、彼が拒絶するのではないかという不安を感じていた。そんな私の不安をものともせず、彼は私の手をにぎる。

「嫌じゃないの?」――私の手の冷たさに、少し驚いた顔をした彼に言った。だけど、その顔はすぐにいつもの笑顔になった。

「ううん、嫌じゃないよ。ほら、俺の手って熱いくらいだから、ちょうどいいなって」――無理した言葉でもない。繕った言葉でもない。その言葉に、私は手だけでなく全てを受け入れられているのではないかと感じていた。繋がっていることに、幸せを感じていた。

 家の前に着くと、互いにそっと手を離す。その寂しさが、私に冬の寒さを思い出させる。一人だったことが頭をよぎる。未来の二人に確かなものなどないことを思い出す。満ち足りることのない愛を求めずにいられなくなる。

 そんな言葉を「大好きだよ」という言葉でごまかしていた。

家に入る前、自分の家へと向かう彼の背中を見る。
今来た道を一人で帰るとき、彼は私がいない道を通ってなにを思うだろう。

●十六のとき

 あの頃、僕らは白線の内側にいるような気持ちだった。

 高校になり、通学手段にモノレールを使うようになった。あるときから、気づけば彼女と彼は一緒に帰るようになっていた。二人はいつもモノレールの車内の続きとは言えない、何か特別な話のように感じられる雑談を駅でする。ほどほどの時間で、彼が「さて、もう帰らんとな」と言う。「またね」と言い合い、別々の道へ歩き出す。

 それが彼らの帰り道だった。

『俺はあいつのことが好きだ』――ある夜、彼が僕にそんなメールがきた。さらに、同じ身体にいる僕まで含めて好きだと言ってきた。

「どんなこと話したの?」――僕がメールを送って携帯を閉じると、自分と同じ身体を持ったあの子が言う。

「あいつは、おまえのことが好きなんだって」とだけ答えた。次の日も、彼らは一緒に帰っていた。いつものように授業の先生、部活の友だち、家のことなどを話しながら、モノレールに乗っていた。駅につき、改札を出たところで、あの子が口をひらく。

「あの、昨日、悠から聞いた。君が私のことを好きって。その、私は」――しどろもどろしながらも応えようとする彼女の頭を、彼が撫でた。

「もう帰らんとな」――彼女が顔をあげるのと同時に、彼は背を向けて帰って行く。

「私は――!」
そう叫んだが、彼は足早に帰って行く。
彼女の「好きなんです」という言葉だけが取り残された。

 そんなことがあっても、彼の帰る方法がバスに変わるまで、二人は一緒に帰り続けた。その間、二人はその話を蒸し返すことはしなかった。仲が悪くなることも、恋愛関係になることもなかった。ただ二人、「好きだ」ということだけがあった。だけど、その「好き」を言うことに、僕も彼女も彼もみんな臆病になっていたのだ。

 モノレールの駅から、自分の家のある方の階段をおりていく。いつだって、同じ階段を二人でおりることはなかった。お互いに想い合っていても、決して向き合おうとしない二人の心のようだった。

●十八のとき

 あの頃、全てのことに明確な答えがあるような気持ちだった。

 夜の道を歩く。狭い歩道を通って右に曲がって、広い道路を左手に眺めながらまっすぐとした道を歩く。中程まで行くと、モノレールの線路が見える。モノレールの線路を越えて、マンションの間をくぐって、自分の家の前まで来る。

 その三十分の間、話す事はたくさんあった。彼は色々なことを知っている人だ。特に生物関連のことに詳しく、見た事がない花や虫のことを教えてくれた。「これって何?」「ねぇ、それってどういうことなの?」「教えてー」その一つ一つに、分かる範囲でのこたえとなるものを教えてくれた。

 帰るときは、二人で手をつないで帰っていた。いつから、どうして繋ぎ始めたのかは覚えていない。お互いに自然と繋ぐようになっていた。彼の手は自分よりも大きく、骨張った手だと思ったことがあるのだけ覚えている。

 冬になり、手が凍えるような時期になっても、手をはなさなかった。繋いでくれることのお礼にと思って、手をつなぐ前にできる限り自分の手を温めた。「ぽんの手はあったかいな」そう彼が言ったときに、「人を温めるためにあったかいんだよ!」と得意げになるためだった。

 手をつないで道を歩き、家の近くに着くと、人がいない隙に抱きしめ合ったりキスをしたりしていた。それでも、恋人同士だと胸を張って言えなかった。

彼の心の中のことが分からなかった。
――危なっかしくフラフラ歩いているから手をつないでくれるのかな?
――夜中に一人で帰るなんて言うから家まで着いてってくれるのかな?
――ぽんが周りをちょろちょろしているから、かまってくれるのかな?
 
自分の心の中にある「なにか」が分からなかった。
――いろいろなことを教えてくれる父への愛なのかな?
――ぽんのことを理解してくれてる友への愛なのかな?
――キスをしたら満たされる気持ちになる愛なのかな?

今、ぽんのこと、どう思っているの?
――聞かない限り、彼は本当に知りたい答えを教えてくれない。

 ある夜、彼の顔を眺めながら「この帰り道を通ることがなくなる一日前に、聞いてみよう」と決心をした。


●二十一のとき

 実家に帰ると、必ず一度はこの道を歩いてみる。

 その道の朝も昼も夜も。春にコンクリートの道の端が色めくのも、夏に空に花が咲くのも、秋に葉の絨毯ができることも、冬につもることがない雪が降るのも。私たちは全て知っている。咲いている花も、咲かなかったつぼみも、咲こうとした花も全てを覚えているからこそ、その道を歩く。そこにあった想いを拾うような気持ちで歩く。

 夢見る頃を過ぎても、それぞれのあの頃の夢は依然としてきれいなままだった。

 セカペンでした。











(編集責任:らららぎ)

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Comment

無題

  • セカペン
  • 2014-11-26 22:22
  • edit
●十六のとき の部分で誤字を見つけました。
「彼が僕にそんなメールがきた」→「彼が僕にそんなメールを送ってきた」です。
申し訳ありません。
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